WORK SHOP
 
一般社団法人白樺プロジェクト
事務局( 田中)070-8061 北海道旭川市高砂台 6 丁目 12-1 
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  ( 敬称略)
報告書ダウンロード⇨  20240706-07-森林ツアー+樹皮採集.pdf

 
①概要および目的
 7月6日、7日の2日間にわたり北海道大学雨龍研究林で、原生林や広葉樹天然更新試験林を中心とした森林ツアーと、この時期にしか行えないシラカバ樹皮採集のワークショップを行いました。4回目となる今回は50名の森林関係者や学生や一般の方に参加していただき、恒例になった夜の発表会も含めて、学びのある森の交流イベントとなりました。
 一般社団法人白樺プロジェクトは、「シラカバを北海道の持続可能な地域資源ととらえ、産業として、 文化として地域に根ざす」ことを目的に、シラカバを人の手で「育てる」と高付加価値で「使い続ける」という活動の二つの柱を中心に活動しています。「育てる」では、効率的で生態系に負荷の少ない天然更新によるシラカバ育成の普及を目指すだけではなく、森林や林業や地域の課題、特に広葉樹の保全と利用の問題を参加者と一緒に考えるプログラム作りを目指し、森林ツアーやサイエンスカフェ、各種ワークショップを行っています。
研究林では来冬に8haのシラカバ林の伐採を予定しており、伐採(冬山造材)、伐採後の再造林の見学と続いていく森林ツアーの起点と位置づけました。伐採前の森林について見学し、利用の一環として北大森林研究会が行う「白樺鉛筆プロジェクト」のための伐採を行い、外樹皮だけではなく染料としての内樹皮の採集も行いました。また、広葉樹は人の手で育てることは難しとされていますが、森林本来の力を利用した天然更新の森づくりの視点に欠かせない「森林の遷移(せんい)」についても学べるツアーを目指しました。

森林研究会の学生が案内役を

胸径1mを超えるアカエゾマツ

40年手を加えていない白樺林

掻き起しと、表土戻しを交互に

根の下くらいまで重機で掻き起こす

7年経った幼木

学生からも土壌菌類の興味深い説明

日付が変わるのも忘れるほど

②活動報告
7月6日(土曜日)
 12時30分に雨龍研究林研究棟に集合、あいさつと自己紹介を行った後、研究林のバスに乗り込み、車で5分ほどの原生林に到着。4班に分かれ、2班は研究林関係者が、残り2班は北大森林研究会の学生が案内役を務めました。1時間程度林内を散策。主に原生林の中でどのように樹木が更新していくかなど、案内役から出される様々な話題提供に質疑を交えながらアカエゾマツやミズナラの大木が点在する原生の針広混交林を歩きました。その後バスに乗り込み、シラカバ天然更新地に移動。今年掻き起こしをした伐採跡地では、栄養を含んだ表土を掻き起こし後に戻す「表土戻し」についての説明を受けたり、実際に重機を動かしてササの根の深さまで削り取る様子を見学したりしました。次に7年生のシラカバ天然更新試験林に移動。樹高は背丈を軽く越していて、その中でも表土戻しの有無、間引きの有無やタイミングなどで生育状況が変わる様子を観察しました。研究林の担当教授の説明だけではなく、研究林をフィールドとして研究を行う学生からも土壌菌類の視点から興味深い説明も行われました。移動中のバスの車窓からも、40年ほど前に天然更新で育成した同じシラカバ林でも、強い間引きをした場所と間引きをしていない場所を見比べたりしました。
夕方研究棟に戻り、自由時間。多くの人が車で20分ほどの日向温泉に入浴しに行きました。
その後18時30分から夕食を食べながら、恒例の参加者による発表会。今回は7団体・個人にそれぞれの活動や研究内容を紹介してもらいました。質疑応答も盛んに行われ、時間も大きく超過するのも毎年恒例となっています。その後は懇親会。日付が変わるのも忘れるくらいの盛り上がりでした、
<発表会の内容>
1.北大森林研究会/藪本:「北大森林研究会の活動について」
  北大森林研究会/矢崎・安齋:「白樺鉛筆プロジェクトについて」
2.木育マイスター・空知林管理署/中嶋:「木育マイスターの活動について」「天然力を活用した低コスト再造林技術への取組」
3.㈱信州白樺クラフト製作所/渡部・吉田:「信州白樺クラフト製作所の紹介」
4.木育マイスター・三津橋産業㈱/中野:「三津橋産業の紹介」「木育マイスターの活動について」
5.森林総合研究所東北支所/松浦:「平庭高原(岩手県久慈市山形村)シラカンバ林の再生・更新・利用に関する調査の紹介」
6.北海道立林産試験場/平良:「林産試験場性能部保存グループについて」「シラカバ樹皮の保存について」
7.北海道立林業試験場/内山:「林業試験場の紹介」「シラカバ樹皮の利用について」

1.北大森林研究会/藪本

1.北大森林研究会/矢崎・安齋

2.木育マイスター・空知林管理署/中嶋

3.㈱信州白樺クラフト製作所/渡部・吉田

4.木育マイスター・三津橋産業㈱/中野

5.森林総合研究所東北支所/松浦

6.北海道立林産試験場/平良

7.北海道立林業試験場/内山

7月7日(日曜日)
 朝食後8時15分に研究棟を出発。2班に分かれミズナラの天然更新試験林を見学。樹種が異なると同じ天然更新による育成でも手法や課題の違いがあり、前日のシラカバの天然更新との比較が役に立ちます。10年に一度のマイマイガの大量発生や、70年から100年以上の周期とも言われるササ枯れなどタイムリーな話題の提供も。ササ枯れが樹木の天然更新を促進するかを調査するために、散布した種子の生育状況なども観察しました。
 その後、来冬に伐採予定の8haのシラカバ林に移動。伐採の理由や経緯、伐採後の再造林についての説明を受けました。樹皮も有効利用できるよう、樹皮が向きやすく、白樺鉛筆プロジェクトで製材に向きそうなシラカバを2本学生が選木。伐採したのち、必要な長さに玉切りし、外樹皮と内樹皮を丁寧に剥く。一般の参加者も立木から選木して樹皮を採集しました。
 研究棟に戻り、昼食。
 昼からは、展望台と呼ばれる高台までバスで移動。広い研究林が見渡せる場所に行き、森林全体を俯瞰する視点から説明を受けました。針広混交林の中にも樹木がなくササが広がる場所やアカエゾマツの純林が広がる場所があること、研究林の一部が人工衛星による観測活動の一つの起点になっていること、自然共生サイトに指定された経緯や目的など話題は多岐にわたります。
 その後、湿地帯のアカエゾマツの純林に移動。直径10cm程度のアカエゾマツが樹齢200年くらいで、太いものは700年くらいあること、泥炭地であり人が飛び跳ねるだけで地面が揺れ振動が伝わること、泥炭中の埋土種子から1万年以上前の森林の構成をうかがい知ることができることなど、ここでも質疑応答で盛り上がりました。
 14時半ごろには研究棟に戻り、解散。
 北大森林研究会と粗清草堂のメンバーは、伐倒したシラカバ丸太や外樹皮・内樹皮を回収し、後日有効に使われることになります。

ミズナラの天然更新林

稚樹の葉がかなり虫に食われてる

笹が枯れている。100年に一度?

伐採予定の白樺林

今年が一番むけやすかった

内樹皮もするするとむけます

展望台。原生林などの展望

アカエゾマツ。樹齢200〜700歳

③開催日および開催場所
日時:2024年7月6日(土曜日)、7日(日曜日)
場所:北海道大学雨龍研究林(幌加内町母子里)、 
  宿泊場所、発表会:雨龍研究林研究棟   
 
④主催:一般社団法人白樺プロジェクト(旭川市)、  北海道大学雨龍研究林(幌加内町)
 協力:  北大森林研究会(札幌市)
 
⑤参加者
7月6日 森林ツアー(原生林、シラカバ天然更新試験林)・・・43名
 発表会、懇親会・・・39名
7月7日 森林ツアーと樹皮採集ワークショップ(午前の部、ミズナラ天然更新試験林、伐採予定のシラカバ林)・・・45名
     森林ツアー(午後の部、展望台、アカエゾマツ原生林)・・・41名
(2日間総参加者50名)
(参加者内訳)
北大森林研究会21名、北海道大学雨龍研究林関係者4名、林産試験場関係者1名、林業試験場関係者3名、森林総合研究所所員1名、木育マイスター3名(木材会社社員、山林所有者、森林管理署)、粗清草堂スタッフ3名、一般参加者8名、白樺プロジェクト関係者5名、他1名(動画撮影協力)
 
⑥日程および内容
▶7月6日 (土曜日)少雨時々曇り
12:30 北海道大学雨龍研究林研究棟(幌加内町母子里)集合 、自己紹介、注意事項説明
13:25  原生林散策 
15:00 掻き起こし地見学、重機による掻き起こし実演
15:45 7年生シラカバ天然更新試験林見学
16:35 研究棟に戻り、日向温泉などで入浴
18:30 各団体個人による発表会(~21:45 )、懇親会
 
▶7月7日 (日曜日)曇り時々少雨
8:30 出発
8:55 ミズナラ天然更新試験林見学
9:50 伐採予定のシラカバ林見学、シラカバ伐倒(2本)、外樹皮内樹皮採集
11:50 研究棟に戻り、昼食
12:50 出発
13:05 展望台見学
13:45 アカエゾマツ原生林見学
14:35 研究棟に戻り、解散
北大森林研究会、粗清草堂のメンバーで、シラカバ丸太、外樹皮内樹皮回収

季節を通して森の変化を追います

ドローン撮影も

笹の地下茎を確認

今年は、マイマイ蛾が大発生

⑦第4回森林ツアーと樹皮採集ワークショップを終えて
 
● 一般参加者の募集
 これまではコロナ禍やヒグマ人身事故の影響で関係者のみの参加でしたが、4回目の森林ツアーで初めて一般参加者の募集を行いました。結果的には本州も含め8名の一般の方に参加して頂きましたが、白樺プロジェクトの他のワークショップに参加頂いた方や、プロジェクト関係者の知り合いや業界関係者なども多く、2日間の日程で遠方となるとやはりしっかりした目的を持った方ではないと参加のハードルは高いのかと思います。ツアー中や発表会でも森林に関してやや専門的な内容も多くなりますが、森の仕組みに興味を持ってもらい、種が落ちても樹木が簡単には育たないこと、多様な樹木のそれぞれの特性により育て方や課題が異なること、それらをしっかりと正しく知るために長い時間をかけて研究をしていることなどを森で少しでも感じてもらえればと思います。もちろん、回を重ねるごとにより分かりやすく興味を持ってもらえるような内容に近づけていきたいと考えています。
 
● 学生など若い世代の活躍の場に
 過去4回とも全て北大森林研究会のメンバーが参加し続けてきてくれています。
 今年は計画段階から下見に参加してもらい、ツアーのプログラム作りなども一緒に考えました。また原生林散策では2つのグループの案内役を務めてもらい、通る声でしっかりと説明する姿に頼もしさを感じました。天然更新試験林見学でも学生自身の研究内容の視点から説明を加えてもらいました。
また、今回記録用に動画撮影を行っていますが、動画撮影経験のある2名の若い社会人の方に計画段階から積極的に関わってもらっています。なかなか伝えることの難しい森林のことを、彼ら彼女らと一緒に分かりやすい動画を製作していきたいと考えています。
 
● 川上から川下まで、様々な背景・価値観を持った人たちの交流の場に
 森林や木材に関心があっったり実際に携わったりしている様々な背景・価値観を持った人が集まるイベントとなってきました。森林に関わる知識や内容は多岐にわたり、たとえ専門家であっても森林の川上から川下まで全てを網羅している人はいません。様々な立場の人の多様な視点が入り、フラットな関係で交流できる場を提供できるイベントでありたいと思います。
 
● 研究林で森林ツアーを行う意義
白樺プロジェクトが考える森林ツアーでは、「人は森林を利用していかなくては豊かな生活ができない」という前提に立って、「ではいったい、ここ北海道で暮らす私たちはどのように森と関わっていくのがよいのか」を一緒に考えるのが目的です。
その一つに、北海道ではよく見かけるけれどあまり使われていないシラカバが、実は広葉樹の中でも数少ない、人の手で育てやすく生態系に与える影響も少ない樹木であることを知ってもらう機会になればと思います。そのためになるべく多くの人に、北海道の森の特徴である「針広混交林」や、「針葉樹」と「広葉樹」の違い、「植林」と「天然更新」の違い、木の成長だけではなく森の成長を知るうえで大事な「遷移(せんい)」などについて知ってもらえるように、森を歩きながら見て感じて学べるツアーにしたいと思います。それができるのが、多種多様な森林や試験林が混在し、長年にわたる研究成果に触れることができる研究林だと考えます。大学研究林と聞くと内容が難しく敷居の高いイメージがあるかもしれませんが、森林に興味がある方に気軽に研究林を訪れるきっかけにツアーが役立てばと思います。
 
今回はあいにくの空模様でしたが、研究林職員の「雨も自然の一部。雨の森も楽しんでください」という言葉で始まった森林ツアーでしたが、結果的には断続的に少雨に見舞われたものの、それほど不快な思いはせず、要所では雨も止んで、実りのある森林ツアーになったと思います。移動に使用したバスの床が泥だらけになってしまいましたが、研究林の職員が翌日までにはきれいに清掃してくださり、快適なツアーを楽しむことができました。陰に陽にツアーの成功にご尽力頂いた雨龍研究林の職員の方々には、この場を借りて感謝申し上げます※。
昨年は、森林ツアーの前に起きた朱鞠内湖畔でのヒグマによる痛ましい人身事故を受けて、雨龍研究林での開催を断念し開催場所を変更しました。ヒグマの問題など、それなりの対策をしても完全には安全性を確保するのが難しいのが森林ですが、怪我や事故がなく無事終了することができました。今後も安全を最優先に、天然更新試験林の成長を見続けられるよう魅力あるツアーを継続していきたいと思います。
 
※一般社団法人白樺プロジェクトは、雨龍研究林が所属する北海道大学北方生物圏フィールド科学センターと包括連携協定を結んでおります。今回の森林ツアーの実施も、北海道大学雨龍研究林と一般社団法人白樺プロジェクトの共同主催という形で、連携協定の枠組みの中で開催しております。

 (文責:鳥羽山)