WORK SHOP
 
一般社団法人白樺プロジェクト
事務局( 田中)070-8061 北海道旭川市高砂台 6 丁目 12-1 
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  ( 敬称略)
報告書ダウンロード⇨  20250705-06-森林ツアー+樹皮採集.pdf

 
①概要および目的
 7月5日、6日の2日間、北海道大学雨龍研究林において、原生林や広葉樹天然更新試験林を中心とした森林ツアーと、シラカバ樹皮採集のワークショップを行いました。5回目となる今回は、この時期としては例年にない暑さの中、森林関係者や学生の皆さんをはじめ、樹皮を利用したかご作りなどを行っている一般の方々や小学生のお子さんにもご参加いただきました。汗を流し、森の空気と時折吹き抜ける風を肌で感じながら、森づくりやそこに育つ木から生まれる素材や製品とを体感的に結びつける実りある交流イベントとなりました。
一般社団法人白樺プロジェクトは、「シラカバを北海道の持続可能な地域資源ととらえ、産業として、文化として地域に根ざす」ことを目的に、シラカバを人の手で「育てる」と高付加価値で「使い続ける」という二つの柱を中心に活動しています。「育てる」では、植林ではなく、効率的で生態系に負荷の少ない天然更新によるシラカバ育成の普及に取り組んでいます。森林や地域の課題、とくに広葉樹の保全と利用の問題を参加者と一緒に考えるプログラムづくりとして、森林ツアーやサイエンスカフェ、各種ワークショップを行っています。
近年では森林ツアーへの一般の方の参加も徐々に増えてきています。人の手で育てることが難しいとされている広葉樹や、北海道では身近な存在である「シラカバ」について、森林本来の力を利用した天然更新の森づくりとその遷移について学ぶとともに、様々な視点からシラカバ材活用についての意見交換の機会を得られるツアーを目指しました。

雨龍研究林研究棟に集合,自己紹介

近くの原生林(通称「神社山」)へ

アカエゾマツの倒木更新

今年もマイマイ蛾が多かった

②活動報告
 ▶7月5日(土曜日)
 1230分、雨龍研究林研究棟に集合して自己紹介および諸注意を行った後、バスに乗り込み研究棟ほど近くの原生林(通称「神社山」)へ出発。原生林では3班に分かれ、トドマツ、アカエゾマツやミズナラ、カンバ類等の混在する針広混交林の植生や、同林で1991年から続く研究について、原生林内各所において研究林関係者から解説していただきました。倒木更新によって世代をつなぐアカエゾマツの様子や、研究開始以来規則性が発見されていないミズナラの落下種子(どんぐり)の量の変化など、興味深い内容で森林ツアーに引き込まれていきます。
その後、ミズナラ天然更新試験地に移動し、2014年と2018年に「樹冠下掻き起こし」を行ったエリアを見学。伐採予定の母樹を選定し、種子の落下が見込まれる範囲を区画して小規模伐採する前に掻き起こしを行っており、母樹の伐採後6年経ってエリア内に背丈が50㎝以上のミズナラなどの稚樹が育っていることを確認。ミズナラの種子(どんぐり)は粒が大きく母樹から十数メートルまでしか到達しないことや、一帯に繁茂するササの落葉(リター)が土への到達を阻害し、水が得られないことなどにより発芽・生育が困難であるなど、複数の要因による世代交代が困難であることの説明を受け、天然更新を補助する樹冠下掻き起こしの有用性を実感しました。こちらでは冬場の作業についての手間や労力、重機の使用についてなど、具体的な質問がなされており、みなさん実際の作業の様子を実体験と結びつけながら想像されているようでした。
夕方頃研究棟に戻り、各自近くの温泉施設等で汗を流したあと、1830分から夕食をとりつつ事前に指定された参加者による発表会を実施。今回は7団体・個人による発表と林業ライターの赤堀さんによるご講演をいただき、意見交換や質疑応答も盛んに行われました

ミズナラの大木

針広混交林原生林

樹冠下掻き起こしの説明

ミズナラなどの稚樹が育っている

夕方頃研究棟に戻り、各自近くの温泉施設等で汗を流したあと、1830分から夕食をとりつつ事前に指定された参加者による発表会を実施。今回は7団体・個人による発表と林業ライターの赤堀さんによるご講演をいただき、意見交換や質疑応答も盛んに行われました。
 
<発表会の内容>
1.北海道大学雨龍研究林/坂井「北海道の林業と白樺プロジェクト」
2.福山農林合同会社/福山「シラカバの枝葉を利用した製品開発」
3.みかご(シラカバ樹皮かご作家)/森山「シラカバ樹皮を活用したかご制作とロシアの樹皮利用」
4.ウッドペッカー/河石「シラカバ材を活用した自転車づくり」
5.林業ライター/赤堀:講演テーマ「森を活かして地域を元気に~地域林業の可能性~」
6.村山木材株式会社、木育マイスター/村山「木材乾燥のことを知るための2つのキーワード」
7.木育マイスター/中嶋「活動紹介(保育施設での絵本読み聞かせ、植樹体験等)」
8.北海道大学森林研究会/矢﨑・森田「活動紹介(白樺えんぴつプロジェクト等)」

1.北海道大学雨龍研究林/坂井

2.福山農林合同会社/福山

3.シラカバ樹皮かご作家/森山

4.ウッドペッカー/河石

5.林業ライター/赤堀

6.村山木材株式会社/村山

7.木育マイスター/中嶋

8.北大森林研究会/矢﨑・森田

7月6日(日曜日)
朝食後、2日目から参加の5名が合流。8時10分に研究棟をバスで出発し、国道沿いのシラカバ掻き起こし地を見学。昨冬伐採した木材が敷地内に積み上げられており、シラカバ材の品質に応じた主な用途や、用途別にあらかじめ選別することで価値(価格)を保つメリットなどついて説明を受けました。育てるだけではなく、シラカバ材の幹の部分を高付加価値で活用するには、品質が保たれていること、すなわち良い条件での生育も重要であると考えさせられました。本題のかき起こしについて、ササの落葉(リター)や根を撹拌して土を裸出させることに加え、「表土戻し」を行うことでシラカバの生育がより促進されることが分かっていましたが、さらに表土を2倍戻して表土をはぎ取ったところと交互に筋状に施工することで、間引きの手間を省くと同時にシラカバの成長空間を確保し、高い栄養を供給できる施工方法や、これまではかき起こし後に隅に押し退けられていた枝を表土とともに敷きもどす「枝置き」を行うことで、表土の乾燥を抑制し、密生しすぎていたカンバ類の密度調整を図るなど、新たな取り組みの様子も見学しました。
 その後、シラカバ2年目掻き起こし地および8年目掻き起こし地を見学。8年生のシラカバは人の背丈の2倍ほどの大きさによく育っており、同時期に試験的に植樹されたエゾアカマツの稚樹(地面から枝葉が生えたような小さくかわいらしいもの)と比べると、かき起こしや表土戻しによる効果はもちろんですが、シラカバ自身の成長速度に驚きの声が上がっていました。更新後のシラカバは3~4年で間引きを行い、その後の除伐で95%が取り除かれるほど密生して育つということで、除伐した枝葉について、前日の発表を引き合いに、そのまま捨てるのはもったいない、有効活用しなければという会話が聞かれました。

昨冬伐採した木材が敷地内に

国道沿いのシラカバ掻き起こし地

シラカバ2年目

8年目の掻き起こし地

さらに移動し、10時過ぎにはシラカバの「葉」の採集現場を見学。1970年代に樹冠下掻き起こしが行われたまま手つかずの状態であった場所で、シラカバに限らず多様な樹種が見られ、母樹であろう大きな木々とその後成長したと思われる細い木々とが立ち並んでいました。伐採や集材のコストに見合わずこれまで利用されてこなかった場所ですが、幹の活用が難しい小径木の間引きを行うと同時に、枝葉を採集・搬出し活用する方法を実践的に検証しています。
午前中最後の見学地点として、40年生カンバ林の列状間伐地に移動。カンバ林はシラカバの生育限界である標高約600m地点にあるということで、道中とは様子が異なりダケカンバが多く分布していました。また、列状間伐地では大型重機による施工を行っており、これまで見学した他の原生林や試験林とは異なり、一目でわかる拓けた伐採地と大きな通路が圧巻でした。伐採を行わず列状に残した部分も10年間隔で順次伐採、更新作業を行うということで、森林の活用や育林の方法も種々様々であり、環境や樹種に応じた最適な方法が長い年月をかけてこれからも模索されていくのだろうと期待に胸が膨らみました。

母樹であろう大きな木々

真ん中から左が択伐、右は非施行地

40年生カンバ林の列状間伐地

稚樹がびっしりと育っています

 13時、研究棟で昼食後、多くの方が楽しみにされていた樹皮採集体験に出発。事前に選定していた1本について、目立たない部分にカッターの刃を入れて樹皮採集が可能か確認した後、伐倒を見守ります。倒れたシラカバに近づくと、昨年のマイマイ蛾の大量発生に続き、今年も多くの毛虫が幹や枝葉を這いまわっていました。幹を使用用途にあわせて90㎝の長さに玉切りし、そこから樹皮採集を行います。2日目ということもあり、皆さん慣れた様子で毛虫を取り除くと、樹皮にカッターで筋を入れ、幹を転がしながら外樹皮を手で剥がしとっていきます。幹の状態が良いものは約90×100㎝の大きなシート状に採集することができました。外樹皮を剥がすと現れる内樹皮も染料として活用されるため、ヘラで剥がしていきます。剥き身の幹の表面は白く艶やかで水分が含まれてしっとりとしており、ココナッツの実のような質感でした。残った枝や幹の端の部分は薪用に切断し回収、皆さん夢中で樹皮採集を行ったところ、あっという間に時間が経過していました。
15時頃、研究等に戻り、採取した外樹皮を購入希望者に分配し、解散。今回は樹皮でかご編みをされる方が数名参加されており、その他にも樹皮の活用に興味を持たれた方など6名で分配しました。

樹皮採集が可能かテスト

伐倒を見守ります

小学5年生も参加

染料に使う内樹皮もヘラで剥がして

③開催日および開催場所
日 時:2025年7月5日(土)、6日(日)
場 所:北海道大学雨龍研究林(幌加内町母子里)
    (宿泊、発表会:雨龍研究林研究棟)
 
④主催
一般社団法人白樺プロジェクト(旭川市)、北海道大学雨龍研究林(幌加内町)
協力:北大森林研究会(札幌市)
 
⑤参加者
7月5日 森林ツアー(原生林、ミズナラ天然更新試験林)、発表会、交流会・・・32
7月6日 森林ツアー(午前の部、シラカバ天然更新試験林)・・・32
樹皮採集ワークショップ(午後の部、シラカバ天然更新試験林)・・・36
(2日間総参加者38名)
 
(参加内訳)
北大森林研究会10名、北海道大学雨龍研究林関係者4名、林業・林産試験場関係者4名、木育マイスター3名、林業関係者4名、一般参加者10名、白樺プロジェクト関係者3名
 
⑥日程および内容
7月5日(土)晴れ
1230 雨龍研究林研究棟集合、自己紹介および諸注意
1320 原生林散策
1500 ミズナラ天然更新試験林見学
1630 研究棟に戻り、日向温泉等で汗を流す
1830 各団体個人による講演、発表会(~2115)、懇親会
 
7月6日(日)晴れ時々曇り
8:10 研究棟出発(5名合流)
8:15 国道沿いのシラカバ掻き起こし地見学
8:55 シラカバ2年目掻き起こし地、7年目掻き起こし地見学
1016 シラカバの「葉」の採集現場見学
1110 40年生のカンバ林・列状間伐地見学
1150 研究棟に戻り、昼食
1300 シラカバ樹皮採集体験出発
1310 シラカバ伐倒(1本)、樹皮採集
1500 研究等に戻り、解散
 

以上/文責:小笠原

大きなシート状に採集

細かく玉切りにして薪に

できるだけ持ち帰ります

暑さの中、無事二日間を終えました


⑦第5回森林ツアーと樹皮採集ワークショップを終えて
 
〇暑かった!
 雨龍研究林は緯度が高く、宿泊した研究棟でも標高300mあり、例年であれば夏でも寒さ対策が必要な場所です。5回目となる今回は、天気には恵まれたもののかなり暑く、熱中症にならないよう水分をこまめにとり説明時はなるべく日陰を選ぶなど対策しました。
 
〇森の「世代交代」を考える場になりました
広大な研究林には、原生林をはじめ数十年以上前に研究目的などで人が手を掛けた森など、さまざまな森が存在します。それらは、今も、これからも、研究対象になっています。それらのいくつかの森を見て比較する中から、長い年月かけて移り行く森のすがたを科学的な視点から感じ取り、どのように森の中で木々が世代交代していくかを少しでも感じ取って頂けたのではないかと思います。木を伐った後どのように再び木が育って行くかを知ることは、人間が森を持続的に利用していくのにどのような方法がよいのかを考えることにつながります。
 
〇さまざまな背景の人が交流する場になりました
樹皮細工に関心がある一般の人から、学生、木材を利用する人、森林や林業に関係する人など、様々な背景・価値観のある人が集まりました。夜の発表会では発表者の話題は多岐にわたり、様々な角度から森について知り、考えることができました。その後の交流会も深夜まで盛り上がり、普段なかなか出合わない人たちと交流を深めることができました。
 
〇樹皮を採集した木はなるべく無駄なく回収しました
樹皮採集では胸高直径34cmのシラカバを1本伐倒しました。樹皮採集するだけではなく、例年のように内樹皮も採集し染料の材料としました。幹は主に今回は「曲木」の材料をとして回収し、細い幹や枝は薪用に積み込みました。そういった作業に参加者が暑い中、汗を流して夢中で取り組んでもらいました。
 
〇事故や怪我無く、無事にツアーを終えることができました
本州からも含め、札幌、平取、栗山など遠方から車を運転しての参加者が多かったですが、途中事故などはなく、ツアー中も事故や怪我無く無事ツアーを完遂することができ、何よりでした。今後も安全対策をしっかりして、学びのある楽しいツアーを続けていきたいと思います。
 
一般社団法人白樺プロジェクトは、雨龍研究林が所属する北海道大学北方生物圏フィール ド科学センターと包括連携協定を結んでおります。今回の森林ツアーの実施も、北海道大学雨 龍研究林と一般社団法人白樺プロジェクトの共同主催という形で、連携協定の枠組みの中で 開催しております。
 

以上/文責:鳥羽山