2020年6月初旬の新緑の季節に、好天に恵まれた北海道大学雨龍研究林内で白樺の幼木からハーブティー用の若葉を採集するワークショップを行いました。
白樺プロジェクトは、白樺を北国北海道の持続可能な地域資源として再評価し、文化として産業として地域の生活に根付くことを目標としています。
白樺は木一本丸ごと利用でき、用材のみならず、樹皮、葉、樹液など様々な使い道があり、北欧やロシアなどでは健康の木、看護婦の木などともいわれているように、健康で豊かな生活を目指すうえでも古くから利用されてきた樹木でもあります。
今回は、ハーブ農家でもありオーガニック製品を製造販売するLien(リアン)の代表の石田佳奈子さんにご協力を頂き、ハーブティー用と蒸留水用に若葉を採集し、原料として使って頂くことにしました。
白樺プロジェクトは、今後50年くらい継続される、エコロジカルにかつ効率的に白樺を増やす研究と、将来にわたって白樺製品が高付加価値で利用される仕組みづくりの両輪が柱の活動です。今回のワークショップでは、研究中の白樺の「人工的な天然更新」の初期の段階で間引かれる幼木を、ただ林内に放置するのではなく、有効活用して、将来的に林業経営に寄与するかどうか検証する目的で行われました。
①目的
人の手で増やすことのできる数少ない広葉樹でもある白樺ですが、研究中の白樺の人工的な天然更新の初期の段階で、密生した白樺の幼木を間引きする必要があります。単に間引きして林内に放置するのではなく、活用方法の
1つとしてハーブティー用の若葉採集の可能性を探ることが目的です。
◎幼木の葉が白樺茶用の品質に向くか
◎間引きと同時に行える作業になりうるか
◎作業は効率的にできるか
◎将来的に経済的に林業に寄与するか
◎このような作業が一般の方の参加するワークショップに なりうるか
などを検証する。
②開催日程
6月3日(水曜日)/晴れ
9:30~ 初めての来訪者のみ北大雨龍研究林事務所に先に集合。雨龍研究林の沿革および研究内容についてレクチャーを受ける。
10:00~ 参加者全員集合、あいさつ、作業の目的、内容、注意事項の確認
10:30頃 事務所出発。
10:40頃 採集場所到着、準備。白樺の天然更新の施業地を見学、レクチャーを受ける。いくつか施業方法の違う実験林を案内してもらい、生育状況の違いを実際の現場で体感する。生育における笹との関係性についても理解を深める。
11:00頃 採集地に移動し、作業開始。
12:00頃 採集作業終了、片付け、採集地出発。
12:20頃 事務所に到着、食堂にて昼食。
13:00頃 研究林事務所を出発。
15:20頃 旭川市西神楽のLienのハーブ農場の搬入。太い枝を取り除き、枝葉を適切なサイズに切る作業を行う。
17:00頃 作業終了、解散
③若葉の採集場所
北海道大学雨龍研究林内の白樺林。
5年生、樹高2~3m程度、2~3本/㎡の密生地で間引きを行う林。
④参加者・協力者(敬称略)
<協力者>Lien(リアン、オーガニックハーブティー・蒸留水・精油製造販売) 代表 石田佳奈子
<北海道大学雨龍研究林>坂井、宮崎(技術専門職員)
<白樺プロジェクト>鳥羽山(代表理事)、田中(事務局・記録係)、木と暮らしの工房スタッフ5名
⑤服装、持ち物など
<個人>森林での作業に適した服装、長靴、手袋、帽子、着替え
<共同>剪定ばさみ(研究林、個人)、手鋸、ビニール大、荷造りロープ(研究林)ブルーシート、虫よけスプレー、消毒液、救急箱(木と暮らしの工房)
手鋸は伐採に使用、荷造りロープは伐採した白樺を束ねて車のある所まで運ぶのに使用、剪定ばさみは車の積み込み時に根元を切るのとハーブ農家での作業時に使用、ブルーシートは作業や車の積み込みにあると便利だが、若葉をくるんで蒸れてしまうような使い方をしてはいけない。ビニール袋は使わず。 特に不足したものはない。
⑥作業内容、注意事項
採集地までは150mくらい徒歩で移動。
2mから3mくらいの高さの白樺が密生していて林床は主に笹でおおわれている林に分け入って、間引きを兼ねて根元から手鋸で伐採。残す木にはあらかじめテープが巻いてあり、それ以外を伐り出す。伐り出す人と、集材する人に分かれ、開けた場所に集めてロープで束ねる。担げる程度の量にまとめ、肩に載せて搬出。なかなか重労働なので、車を寄せられるところまで移動。担ぎ出して歩く距離は70mくらい。
車に乗せる前にシートを敷き、あまり細かくするとしおれてしまうのも早いだろうということで、根元の太い枝のみをカットして積み込む。ハイエースの荷台の窓の高さくらいまで積み込む。2時間以上かけて移動する間に、ややしおれてしまったが、しおれたり乾燥するのは問題ないようで、蒸れたりすると、乾燥した時に黒く変色したりして品質が下がるとのことで、車内が熱くならないように運転時は窓を開け、駐車はなるべく短くして、後部ドアを開けて風通しに配慮する。
石田さんの農場に着いて、乾燥小屋の前で、適切な大きさに伐り直す。蒸留機に入れる分は13kgで、おそらく乾燥棚に敷いた分を合わせると、全部で25kg~30kgくらいだったのかと思います。
⑦ワークショップ開催の経緯や事前の準備
フランスで修業を積んだハーブ農家でオーガニックのハーブティーなどをブレンドし、販売するLienの石田さんとの出会いから、このようなワークショップを思いつきました。
昨年10月に白樺プロジェクトの集まりに参加して頂き、白樺のハーブティーを振舞っていただき、とても美味しく驚きました。健康という観点からの白樺利用は北海道ではあまりなじみがありません。身近な白樺を文化として定着を目指すことと、白樺育成の過程で間引きされる幼木の有効利用が結びつかないかと考えて、ワークショップ開催にいたりました。
北大雨龍研究林に採集場所の提供と作業の協力のお願いをし、「施設利用申請書」を提出、開催の10日ほど前に、石田さん、研究林、プロジェクトメンバーが参加しオンラインで打ち合わせをしました。研究林には事前に残す木にしるしをつけてもらいました。
開催日は3日ほど候補を決めて置き、直前に天候を判断しながら決めました。
⑧ワークショップを終えて
今回は、間引きされる白樺の幼木をハーブティー用の若葉採集として有効活用できないかということが目的でした。
◎幼木の葉が白樺茶用の品質に向くかどうかについては、最終的に製品になったときに評価されるのですが、石田さんから見て、今回の葉は小さめという印象で、それが幼木だからなのか、採集時期によるものか、地域的なものなのか、今後検証していく必要があるかもしれません。
ただ、とても香りが良く強いということで、品質的には十分ではないかということでした。
香りについては、採集の前の天候にも左右されるようで、雨が続いたりしたときは香りが弱いことが多いようです。
また、品質に関しては、昼の一番暑い時間帯から夕方に採集するのが最適のようで、なるべく早く乾燥処理する方がよいとのことです。今回は2時間かけて搬送することになりましたが、暑い中駐車して車内が高温になったり、ビニール等でくるんで蒸れたりすると品質が低下するようで配慮する必要があります。また香料などが葉につかないように気を配ることも大事です。
今回は、車で窓を全開にして走りましたが、車内はとても良い香りに包まれていました。
時間がたつと枝の先端の葉からしおれてきますが、しおれたり乾燥したりするのはそれほど問題はなく、蒸れる方が問題のようで、ハーブを扱うのにはビニールなどより布の方が使われるようです。
◎間引きの作業の中に組み込むことができるかということでは、量的には少ないものの十分間引きを兼ねた作業となると思われます。効率的かどうかについては、幼木が密生して生えているので、必要な量を集めるのには効率的ですが、すべて手作業となるので、その手間のコストと、それを原料とした製品のブランド力の兼ね合いになるのかと考えられます。
◎将来的に経済的に林業に寄与するかどうかですが、石田さんがてがけているようなオーガニックの製品は白樺に特化しているわけではなく、さまざまなハーブのブレンドの一つということになります。おそらく大きな需要とはならないかもしれませんが、葉を束ねたヴィヒタなども製品化する動きもあり、草木染などにも既に使われていて、そういったものと合わせて葉を有効利用する可能性は今後も検討の余地があると思われます。
◎このような作業が一般の方の参加するワークショップになりうるかどうかについては、研究林の技術専門職員の方のレクチャーと、実際の作業と、収穫した若葉では味わえないものの前年収穫された若葉のハーブティーなどを試飲することなどを合わせたら、五感で森を体感できる有意義なワークショップができるのではないかと思います。
今回の参加者は木工関係者が大半でしたが、自分たちが使っている木材の出どころについて、考えたり、感じたりすることが出来たという感想でした。作業も楽しかったようですが、最後の適度なサイズに切る作業は量が多かったようで、どちらかというと単調な作業なので少し検討の余地があるかもしれません。
また、採集の時期は、展葉し始めの若葉が小さすぎる時期では早すぎ、大きく開いてから虫食いが多くなる時期では遅く、天候にも左右されるので、日時が確定するのが直前になる可能性があるので、難しい面も考えられます。
⑨最後に
白樺は木一本丸ごと利用できるという特徴があります。このような活動が、身近な森の恵みである白樺を北国の生活に取り入れることで暮らしが豊かになったり、今まであまり利用のなかった白樺を地域資源として再評価したりするきっかけになることを期待しています。
ご協力いただいたリアンの石田さん、事前の準備から当日の段取り、レクチャーを担当して頂いた研究林の坂井さん、宮崎さんには、この場をお借りして感謝申し上げます。